講演・その他自主研究会
自主研究会「沖縄型新産業創出研究会」/講師:城西大学薬学部講師 川口健夫博士(財団法人都市経済研究所評議員)
2000年9月21日(木)、当研究財団評議員で城西大学薬学部講師の川口健夫博士が来所。
「タラソテラピーと塩療法」−沖縄圏海洋資源利用への一提言−を主題にレクチャーを頂きました。川口先生は、9月4日(月)にも、沖縄県中小企業団体中央会の組織化集中事業「海水機能性研究開発グループ」主催の研究会に招かれ、石垣市(パルテノン会議室)において標記テーマでご講演をしております。今回は、そのレビューも兼ねた研究会となりました。
海洋都市・沖縄の地域資源を活用した新産業としても、その将来性に大きな期待がかけられている「タラソテラピー」。今回の講義では、
- 紀元前4世紀・ヒポクラテスの時代にまで遡る「タラソテラピーの歴史」
- "海洋療法先進国"であるフランスでは医療行為として認知されている「タラソテラピーの定義」
- 海水成分のミネラルバランスと各種元素の人体への効用
- 「タラソテラピーの適応症」(〜リウマチや皮膚病等々の各種疾患)
- 水治療法(ハイドロセラピー)をはじめとする「タラソテラピーの方法論」
等について、分かりやすく、体系的なレクチャーを頂くとともに、地理的環境と気象条件を活用したタラソテラピー先進地である「死海(イスラエル)におけるタラソテラピー」の実例も参考にしながら、沖縄でのタラソテラピーの具体化と今後の展開に向けた貴重な提言を頂きました。
川口先生のレクチャーは、薬学博士としての専門的知見に裏付けされた考察であるとともに、「タラソテラピー」を多角的に分析した上での実践論としても、たいへん貴重な内容でした。具体的には、従来の水治療法である、1.入浴療法(バルネオセラピー),2.海藻療法(アルゴセラピー),3.海泥療法(ファンゴセラピー)等に加え、新たな概念として、バランス塩の摂取や塗布を中心とする「塩療法(サーラセラピー)」を提起され、都市生活者の体調維持など'手軽なタラソ'としての応用可能性も提案されました。
現在、沖縄県石垣市では、海水のみを原料とする「自然海塩」とともに生み出される「高ミネラル水」,「にがり」の活用・事業化に向けた取り組みが進められており、川口博士のレクチャーは、海洋資源を最大限に活用した'沖縄の新しいヘルスケア産業'の創出と事業展開に向けて、たいへん有効かつ貴重な提言となるものでした。
以下、川口先生の講演資料を掲載致します。
タラソテラピーと塩療法−沖縄圏海洋資源利用への一提言−/城西大学薬学部 川口 健夫
背景
天然成分、自然派志向、有機栽培、健康補助食品などのナチュラル商品需要の拡大
天然素材の流行、温泉ブーム、「本物」志向
アロマセラピー、リフレクソロジーの普及
「健康海岸推進事業」 (建設省、1995年)
保健・保養、予防効果
新規事業・創造力の創成、自然教育、環境教育
長期滞在保養の普及によるライフスタイルの変更
「健康文化都市」事業内での「健康海岸」の支援 (厚生省)
7月20日「海の日」の祝日化
歴史
ヒポクラテス(460-377 B.C.ギリシア)「温かい海水の風呂」の皮膚病への利用
ジルクライスト(1756年、イギリス)肺疾患への海洋性気候の有効性
セフェルト(1770年)結核性椎骨炎の治療
シェニッツ(1823年、ドイツ)海水によるバセドー氏病の治療
ヒルシュ(1847年、フランス)地中海沿岸に海水治療施設を開設
ドルフュス(1882年、フランス)カンヌに小児結核療養のための海浜病院を設立
ルネ・カントン(1904年、フランス)海水と血漿の類似性を発見
タラソセラピー国際協会設立(1913年、フランス)
定義
「海水、海の空気、海の気候を組合せ、治療効果を目的とした療法」(フランス厚生省)
「海洋気候の中で、海水、海藻、海泥を用いて行う療法」(フランス医学アカデミー)
海水成分

ミネラルの効用
ナトリウム:体液水分調節機能。通常では過剰摂取が問題。浮腫、高血圧の原因。
塩素:Na, K, Ca, Mg等のアルカリ性金属元素と結合して塩を形成。
マグネシウム:鎮静作用。Ca作用の活性化。通常食では不足し勝ち。
カルシウム:体内情報伝達に不可欠。血圧、消化管、気管支等の制御系物質。
カリウム:ナトリウム排泄促進機能。血圧低下作用。筋肉組織賦活作用。
臭素:鎮静作用。
沃素:甲状腺機能制御。
鉄:赤血球成分。酸素運搬。
亜鉛:正常な味覚に不可欠。
その他の必須ミネラル:銅、マンガン、セレン、リン、ホウ素、クロム、バリウム、ニッケル、フッ素・・・
タラソセラピーの適応症
(1)リウマチ性疾患:進行性リウマチ、慢性リウマチ性関節炎
収縮の緩和、表層血行の改善、鎮痛、冷却作用
(2)外傷性疾患:慢性腰痛、腰疝痛、椎間板ヘルニア
血液、リンパ液、体液循環の改善
(3)皮膚疾患
乾癬:病変の蒼白化、瘢痕皮膚の軟化、剥離
アトピー性皮膚炎:消炎、掻痒の緩和、自律神経系の調整、鎮静
(4)整形外科疾患:骨折術後、外傷後遺症、腱鞘炎、過労
(5)呼吸器系疾患:慢性気管支炎、喘息
(6)精神神経系疾患:ストレス反応、睡眠障害、更年期性抑鬱
(7)循環器系異常:動脈・静脈系異常、リンパ系循環異常
タラソセラピーの方法論
1. 水治療法(ハイドロセラピー)
入浴療法(バルネオセラピー):プール、バス、シャワーなど
海藻療法(アルゴセラピー):海藻パック
海泥療法(ファンゴセラピー):泥パック
噴霧療法(アエロゾルセラピー):海風への暴露と呼吸
塩療法(サーラセラピー):バランス塩の摂取、塗布
2. 医学的リハビリテーション:理学療法(マッソ・キネジセラピー)
海水、塩マッサージ
3. エレクトロセラピー(超音波、レーザー、短波など)
4.熱砂療法(プザマトセラピー)
入浴療法(バルネオセラピー)
(1)新鮮海水の使用:海水特性が維持される範囲の貯蔵は可
(2)大粒子(砂、軟体動物など)を除く為の粗い濾過
(3)洗浄剤、消毒剤の添加は禁止
(4)塩素、フッ素等による殺菌の禁止(紫外線照射が基本)
(5)34-38℃の海水温浴(イオン透過の促進)
浮力の効果:
全身入水 体重の6-10%(通常海水の場合、以下同じ)
胸部浸水 15-30%
骨盤浸水 50-80%
期待される効果:平衡感覚、歩行運動神経の回復と維持
水圧の効果(プレソセラピー):下肢の血行、リンパ液循環障害に有効
滲出液、膿、血液の排出(ドレナージュ効果)
海藻療法(アルゴセラピー)
使用海藻:ひばまた類(フュカス)、こんぶ類(ラミナリア)
海底に生育する海藻のみを採取・使用
引潮時に空気暴露されるものは使用不可:ヨード気化現象などのため
採取後直ちに低温粉砕処理
使用方法:入浴剤(50-60グラム/バス)
海藻パック+赤外線照射(温熱)
海藻マッサージ
海泥療法(ファンゴセラピー)
(1)浅部海底基質(海岸から20-50メートル):動植物の沈殿物
(2)深部海底基質(深度数百メートル):貝、甲殻類の殻の沈殿物
ミネラル分は海水の10-12倍:リウマチ性疾患に有効
使用法:海水温浴槽に溶かす
関節への部分パック
塩療法(サーラセラピー)
(1)海水のミネラルバランスを保持した海塩
(2)海水の濃縮液
(3)海水から塩化ナトリウム等を除いた、ミネラル濃縮物
使用法:経口摂取(食品および食品添加物)
外用剤(ローション、クリーム、パップ等)
入浴剤
エアゾル(溶液の空気中噴霧):経皮膚、経肺
マッサージ療法(マッソセラピー)
(1)軽擦マッサージ
皮膚温度の上昇、表層血管の拡張、ドレナージ効果、緊張緩和
(2)押圧マッサージ
鎮痛、疲労回復
(3)強擦マッサージ
血行促進、表層部と深部の分離(セルライトに効果)、筋繊維組織の柔軟化
(4)リフレクソロジー
内臓機能調整、自律神経系調整
死海におけるタラソセラピー
死海の地理と気候
イスラエル-ヨルダン国境に位置
長さ60キロメートル幅17キロメートルの塩水湖
海抜マイナス400メートル
ヨルダン川の流入、流出河川はない。(水位は蒸発で保たれる)
乾燥・晴天の気候(年平均降水量50mm以下)
温暖な気候;夏季平均気温32-39℃、冬季平均気温20-23℃
高酸素分圧(平均気圧1060ヘクトパスカル前後)、低紫外線量(UV-B)
死海の水
pH = 5.17 (海水 = 8.2) 弱酸性
塩濃度 28-33% (海水 = 3.5-3.8%)
約10倍濃縮
比重 1.2-1.3、 浮力大

死海療法(入浴療法と泥療法)の効果
適応:皮膚疾患、リウマチ性疾患、肺疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、白斑、乾癬性関節炎、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、喘息
(1)乾癬への効果
乾癬:再発性、肥厚性落屑性の紅斑
コーカシアン人種の2-3%が罹患
治療:タール療法、イオウ軟膏、ビタミンD3製剤、ステロイド

(2)アトピー性皮膚炎への効果
アトピー性皮膚炎:強い掻痒、痂皮形成、苔癬化、肥厚化
治療:外用ステロイド療法
4-6週間の死海療法後の結果(ステロイド投与は中止)
患者数:535名
著明改善 72.7%
やや改善 24.3%
不変・悪化 3.0%
沖縄地域におけるタラソセラピー施設の位置付け
背景:
(1)高齢化社会、医療費増大、必然的な健康志向
(2)時間的・精神的余暇の増大 (長期滞在型レジャーの定着)
(3)余暇スタイルの精神的成長 (レジャーの捉え方の変遷、遊びから保健)
特徴:
(1)時間的距離の近さ
(2)エキゾチックな気候と植生(八重山地域で顕著)
(3)質的に異なる海洋資源(水温、透明度、生態系etc.)
(4) 温泉資源?
(5) グルメ志向に答える食材?
差別化の一手段としてのタラソセラピー:
導入期:中長期滞在による自覚的体調改善(1-2週間)。沖縄文化への濃密な接触。
維持期:自宅(都市部)における海洋成分製品の使用。体調維持。
回帰期:定期的中長期滞在の定着。サイクルの確立。
定住期:
2000.9.27update
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